2018年度
優秀賞 / 芸術資料館買い上げ 作品

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

刻々と コクコクト

小山 千尋 コヤマ チヒロ

美術学科 日本画専攻

額装 227.3×181.8cm

日本画・紙本彩色

小山千尋さんの「刻々と」は日常の風景、夕刻の情景を作者の暖かい眼差しで描き上げた秀作である。空と家並みを画面上下で二分する大胆な構図は、密集した住宅街と見上げる空の開放感とを対比させた画面構成になっている。家並みは画面上で組み合わされ検討を重ねた配置で、日本画の絵具特有の複雑な色味と重厚感で描かれている。作者の持ち味である実直な筆致は一見拙いように感じるが十分な存在感と暖かさを持っている。そしてなによりこの作品の魅力は大きく開かれた空にあるだろう。刻一刻と姿を変える空は観るものを心の内へと向かわせる。この作品が持つ情景はいつか見た景色のように人の記憶や感覚に沿って立ち現れる。これまで風景制作に取り組んできた作者の集大成である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

まほろば マホロバ

松尾 奈保 マツオ ナホ

美術学科 油絵専攻

F130号(1940×1620mm)

パネル/油彩

祖父の仕事場が描かれている。日常の室内風景のひとこまを、絵画作品としてまとめるために取材をし、デッサンをとり、さまざまなエスキースや下絵の制作などを通して「何を描くのか?」という画学生にとっての重要なテーマに取り組み、自分の創作に正面から向き合いながら、綿密な積み重ねのあったことが伺える作品である。
松尾奈保は家族を題材とした作品に今までも取り組んでおり、ある意味凡庸さも感じられるような作風ではあるが、学部4年間の集大成として地に足のついた進み方が認められる。
作家としてのこれからの進展にも期待される。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

跡雲 セキウン

黒岩 悠史 クロイワ ユウシ

美術学科 彫刻専攻

H150×D85×W180cm

鉄/金属彫刻

黒岩悠史は、彫刻の基礎である人体塑像に意欲的に取り組む事で彫刻的な造形力を育み、同時に実習や自由制作を通じて金属加工の技術と金属の素材特性を利用した造形方法を研究して来た。
卒業制作では、人体塑造として「女性像」、実材小作品として「鼓動」、そして実材作品として「跡雲」の3点を制作し提出した。それら3点はいずれも黒岩の確かな造形力を示す完成度の高い作品であるが、中でも鉄を素材として制作された「跡雲」は、「雲」と「ビル建設の際の足場」をモチーフに、再開発によって変貌する故郷への思いを造形化しようと試みた意欲作であり、素材の特性を生かしながら、黒岩独自の造形解釈によって造り上げた秀作である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

記憶に咲く花 キオクニサクハナ

清水 美於奈 シミズ ミオナ

デザイン工芸学科 染織造形

H.600×W.4,000×D.4,000mm

ポリエステル布、アクリル糸/絞り染め

『記臆に咲く花』は、作者がこれまでの感謝の気持ちを込め、自らの記憶をプリントしたオーガンジーに絞り染めを行い、幾つもの花を象った造形作品である。自然光に照らされて咲く艶やかな色彩の花々が、無数の透ける波状花弁と球と皺とともに優しく語りかけてくる。「脳裏にある薄らではあるが鮮明な記憶を写真を通して想起した時に、私の知らない自分が見えてきた」という作者の言葉の通り、凝縮された記憶が内側から外側へと浮かんでは消え、別の繋がりをもって拡がっていく。それらの花々は、生まれてから今日までの様々な表情が映された写真(約500枚)を、軽く透ける光沢のあるオーガンジー(50m)にレイアウト及びプリントし、ビー玉(大中小)とワイヤーを用いて手で縫い絞った後に染色を行い、根から花へと繋がる造形を制作したものである。作者は、一貫して日本の伝統技術である絞り染めを探究し、素材及び絞り技術を新たに展開させたファッションやインスタレーションによる作品を発表してきた。本作品は、しなやかな感性、ユーモアのある構成力、美しさと耐久性を備えた素材、現代の印刷技術、新しい絞り技術が、極めて高度に融合した秀作である。

優秀賞

12星座のギメルリング ジュウニセイザノギメリルリング

田中 幸奈 タナカ ユキナ

デザイン工芸学科 金属造形

シルバー925,シルバー950,K24メッキ,石 / 彫金、ロストワックス、石留め

ギメルリングとは、三つの輪が重なり1つのリングになる構造を持った指輪のことで、ラテン語の「双子」を意味する”gemini”や”gemellus”が語源とされている。その名の通り「命の結合」や「離れることのない二人」などの意味合いを持ち、結びつきの強さの象徴として中世ヨーロッパで結婚指輪として流行した。作者は、そのリングに興味を持ち、その知恵の輪のようなリングの作り方を独自の研究と試作を繰り返す中で制作方法を見出した。そのギメルリングをより個人との結びつきを強めた特別なリングに仕立て上げるために、「誕生日」「12星座」「誕生石」の3つのモチーフを構成要素に取り入れ、それらの組み合わせによって365種類のギメルリングを作ることができる提案を12星座それぞれをモチーフとしたリング12点を制作して提示している。星座をモチーフとした繊細な造形は3連のリングが重なった時に成立するように計算されており、その繊細な造形と誕生石の配置、3連リングの側面に隠されるように刻まれた誕生日付等が相俟って、一つの物語を演出している。それらのリングは、独自の研究で見出した技術とアイデアが一体となり完成度の高い作品に仕上がっている。

芸術資料館買い上げ

咲かす サカス

岡 裕香 オカ ユウカ

デザイン工芸学科 漆造形

テーカップ H65×W100×D100(mm) 5点
ソーサー  H15×W150×D150(mm) 5点
ポット   H130×W220×D130(mm) 1点

磁器、漆、麻布、金粉、銀粉 / 陶胎、金継ぎ、乾漆

岡裕香は、学部3年の頃より陶磁を素地に漆を塗装する陶胎漆器を研究しており、当初より器全体に漆を塗るのではなく、磁器の質感と強度を活かしながら、デザインに合わせ部分的に漆を焼付け、磁と漆のコントラストを強調したデザイン性に富んだ独自の表現に挑戦してきました。卒業制作では、花の輪郭を前以て切取りや穴開けした磁器製ティーセットを発注制作したものに、乾漆の花を嵌め込むという金継ぎの方法を応用し、飲み口から突出した大胆な演出や、花の表裏の表現など、見た目の面白さや乾漆の柔らかな造形を活かすことに成功しています。デザインとしては、湯を注ぎお茶を淹れるポットにヒナゲシの蕾をあしらい、注ぎ入れるカップには漆の朱と金蒔絵によって、可憐ながら生命感のある花とそこから伸びた茎を、そのカップを乗せるソーサーには上面のみ黒漆を焼付け塗装し、その上に銀蒔絵の葉が表現されています。どれも実用強度を図りながら過度な加飾を控え、磁と漆の色と質感のバランスを重視したシンプルな構成となっており、使うことを考慮したデザインとなっています。タイトルにも込められているように、湯を注ぎお茶を淹れ美味しく飲むという一連の所作をイメージした演出は、使うものを楽しませる作者のユーモアと、それを可能にする技術とセンスが窺えます。

優秀賞

地の憶 チノオク

岸本 祥太 キシモト ショウタ

芸術学研究科 絵画研究分野 日本画

H2590mm×W1940mm

高知麻紙、岩絵具 / 紙本彩色

修了制作「地の憶」は、樹齢三百年の巨木を根元から見上げ取材したものである。縦長の画面には太く大きな幹が大半を占め、樹皮のゴツゴツとしたひび割れとともに地面に根を伸ばし長い年月を生きてきた様が描かれている。作者は自然の生み出す造形と真正面から対峙しその存在を感じ、それだけを表そうとしているように感じさせる。「人間の一生を遥かに凌ぐ年月を経た木肌には、この土地の長い歴史を記憶しながら成長しているように感じた。」と作者が述べているように、この老木の木肌を抑揚のない描線とともに岩絵具の質感を利用しながら鱗のように埋め尽くすことでそれらを表現している。小手先の絵作りに腐心することなく対象に向かう愚直な姿勢はある種の清々しさを感じさせる。表現方法にはなお一層の工夫が求められるが、重厚感、存在感を湛えた力作である。

優秀賞

此処に眠りて滲む ココニネムリテニジム

松本 凌介 マツモト リョウスケ

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

P150号 (1620×2273mm)

パネル/ 油彩

松本凌介は、九州は佐賀県に生まれ、佐賀県の美術専攻のある大学で油絵を学ぶうちに、より強固に画家としての生き方を求めるようになった。大学の指導教員の勧めもあって、広島市立大学で研鑽を積むことを選んだ。その入試を受けるために初めて広島に滞在した松本は、自らの決断がこれからの一生を決めてしまうことに恐れ慄き、ホテルの食堂で眺めた広島の街並みがまるで大都会に見え、彼の挑戦を不敵に嗤っているように感じた。
在学中は夢中になって制作研究に勤しみ、外部での発表活動も活発であったが、一方で発表を前提としない自画像を描くことで改めて基礎的な技術を掴もうと努力をしている。
松本はこの修了作品で、広島に於ける自分の精神的な成長を表そうとしたようである。初めて広島の街並みを見たホテルに取材し、街並みが水面に映る中で自分が水に浸り静かに横たわる姿を描くことで、広島で学びこの街を受容した達成感を表現している。
水面に映り込む建物が遠近法的に不自然で構成に難があり、その意図が適切に伝わる完成度には欠けるものの、正直な感情を絵画表現に昇華しようとする努力とその仕事量は認めなくてはならない。一見逆さにも見える驚きと画面を支える密度ある描写は、絵画表現のひとつの在り方として十分に評価出来る。

優秀賞

操縦 ソウジュウ

魏 偉(WEI WEI )  ギ イ (ウェイ ウェイ)

芸術学研究科 現代表現研究分野

ミクストメディア

彼女の作品のキーワードは、「中国・女性・男女差別・社会問題」であるが、今回の修了作品は、その中の女性にスポットをあてた「操縦」という作品である。中国の農村女性の社会的立場を、ソフトスカルプチャーとして子宮にみたてたものである。高く吊り下げられた子宮は、「道具」と「容器」として表現されている。子供を産む道具として、また労働力としての農村女性の弱い立場を代弁するかの様に、傀儡的子宮は、開放され、喜びの涙が甕へと流れている。
すぐれたインスタレーション作品として、高く評価した。

優秀賞

一口毛峰茶 ヒトクチモウホウチャ

董 蓉 トウ ヨウ

芸術学研究科 造形計画研究分野 視覚造形

H200*D200*W200cm

茶葉、紙、インクジェットプリント、その他

「一口毛峰茶」は、中国の緑茶のリブランディングプロジェクトである。黄山毛峰茶は有名な茶葉であるが、中国における緑茶の淹れ方が複雑であることも要因の一つとなって、若い世代の緑茶離れが進んでいる。このプロジェクトでは、淹れ方や飲み方などを変えることで、そのイメージを刷新し、愛飲者を増やすためのデザインを実践したものである。
このプロジェクトは、非常に丁寧な調査を基礎としている。董蓉は、実際に中国の黄山毛峰茶の産地を訪れ、大手生産者の生産工場や茶畑を取材している。こうして、伝統的なお茶の淹れ方や飲み方を実地に学んだ上で、若者のライフスタイルにあったお茶の淹れ方、飲み方を考察した。結果として、小さなポーションを蝋燭の小さな光とともに楽しむスタイルを提案する作品が完成した。パッケージは茶畑が広がる茶山と茶屋の風景をあしらったイラストレーションが施され、中箱は、中に火を灯すと、別のイラストが浮かび上がる灯篭となっている。味、香り、に加えて、視覚的にもお茶を楽しんでもらおうというコンセプトである。なお、この最終形態に至るまでには、茶葉のパッケージの方法を含めて、様々なプロトタイプを実際に実作して、実現可能性も含めて検討が繰り返された。本作品を、食文化の継承問題にデザインの面から挑戦した優れた作品である。

優秀賞

ReBoarn リボーン

但馬 敦 タジマ アツシ

芸術学研究科 造形計画研究分野 金属造形

H350×W700×D1400mm

銅、銀、真鍮、七宝、アルミニウム、ステンレス 
/ 鍛金、彫金、鋳金、七宝

蛇は、古代エジプトの時代から子宝や性の象徴として、インドでは神の使いとして、日本では金運や守り神の象徴とされてきた。また、ヘビが脱皮をするたびに表面の傷が治癒していくことから、医療、治療、再生(Reborn)のシンボル、不老不死の象徴ともされてきた。作者は、蛇に8の字を描くポーズを取らせる事で「無限」のイメージと「ウロボロス」(蛇が自分の尻尾を噛んでいる姿=始まりも終わりもない完全なもの)を重ね合わせている。これらの神秘的なイメージを持つ蛇に「再生」という花言葉を持つ「キンセンカ」「ダイヤモンドリリィ」「ザクロ」「ユーカリ」「ラッパスイセン」「ノースポール」の6種類の花を纏わせ、非現実的な姿に変貌させる事で蛇に対する親しみを増幅させようと試みている。金属工芸の代表的な技術である鍛金、彫金、鋳金、七宝といった多くの技法を複合的に駆使し、金属の持つ質感や色味を効果的に使い分け、自身の集大成として見応えのある大作を完成させている。その作風は、おおらかで好感の持てる作品に仕上がっている。