2017年度
優秀賞 / 芸術資料館買い上げ 作品

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

ろんそん ろんそん

山田 菜奈恵 やまだ ななえ

美術学科 日本画専攻

181.8㎝×227.3㎝

日本画・紙本彩色
和紙、岩絵の具、膠 等

山田菜奈恵の作品「ろんそん」は、丸い玩具や人形のころがる室内に二人の女性が腰を下ろして寛ぐ室内の風景を描いたものである。画面全体は黄色い絵の具で塗り込められ具体的な描写は人物以外には判然としないものの、黄色の下から覗く描線や色彩表現は対象の存在を示すだけでなく室内の人物を包む柔らかな空気をも感じさせる。また左上部には空間を大きく取り込み登場人物の思考を感じさせる余白として効果的に用いている。必要最小限の直線、筆のタッチで処理した広がりのある画面からは程よい緊張感が生まれている。作品の題名「ろんそん」は作者の造語で、柔らかな字づらと音の響きが丸みを帯びたモチーフの形と共鳴してつけられたもののようである。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

記憶に溺れる きおくにおぼれる

濱元 祐佳 はまもと ゆか

美術学科 油絵専攻

162.0×112.0㎝(P100号)

油彩
キャンバス

久し振りに実家に帰ると自分の居室だった部屋には、かつて両親に買い与えられたり、小遣いで求めた縫いぐるみ達がそのまま、ひっそりと置かれていた。愛玩と慰安の対象だったそれらから自らの気持ちが離れた寂しさを知ると同時に、縫いぐるみの一つ一つに当時の記憶が蘇る。
その記憶は、自分の過去を追体験させると共に家族の歴史を語る。
この作品は縫いぐるみに埋もれた、母と自分の似姿とも言える妹をモデルとして描くことで、多感な少女期を終える女性の惜別の感傷を表している。
3年生から取り組んで来たテーマを技術的な部分も含めて着実に進化させ、絶望や混沌から始まるそのテーマが仄かな希望を暗示させるに至った本作品は完成度の高いものとなった。
言葉に変えることの出来ない個人の感覚的な痛みと想いを、絵画表現に変換しようとする実直な試みと努力を高く評価した。

優秀賞

赤ちゃんの王様 あかちゃんのおうさま

仲島 夏聖 なかしま なつみ

美術学科 彫刻専攻

H130×W205×D380(cm)
100 ㎏重

木、鉄、布、ウレタンフォーム、他

本作品「赤ちゃんの王様」は、作者の生命に対する眼差しを、彫刻として表現したものです。作者は、学部の4年間を、生命を感じる形の追求に費やしてきました。作者の興味は、動植物から感じる生命のエネルギーを彫刻として形で表現することにあります。これまで、樹木の根や握りしめた拳など、内包された力強いエネルギーを感じるモチーフを選択し、それらを抽象化しながら造形し表現してきました。本作のモチーフである”赤ちゃん”について作者は、生命の魅力を造形的に最も率直に感じられる対象と言います。そして、その赤ちゃんの”王様”というのは、力強い生命の代表であり、尊く守られるべき価値の象徴という意味合いのようです。本作は、その赤ちゃんの王様が、大きな掌のようなゆりかごの中で眠っているという設定です。また木彫で形作られたこの赤ちゃんは特定の動物ではないものとして表されています。この世の全てから祝福され庇護される絶対的な存在として表現されたこの種を超えた赤ちゃんからは、生命に対し作者が抱く憧憬と畏敬の念を感じます。実在する形でしか表現できないものが必ずあると信じる彼女の造形への想いが、このような大きな主題を彫刻表現として成立させました。技術・造形共に未熟な面は多分にあるものの、自身の世界観が情熱的に表現され、見るものに言葉にならないエネルギーを感じさせる作品になっています。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

独歩の衆 どっぽのしゅう

松本 千里 まつもと ちさと

デザイン工芸学科 染織造形

H3250×W4900×D1000mm

ポリエステル布、ニット用ミシン
巻き上げ絞りを変化させたもの

『独歩の衆』は、日本社会を動かしている群衆に見立てた無数の大小の白い布の泡沫が、渦巻きながら壁から天井や床へと拡がっていく壮大な造形作品である。本作品は、現代社会のなかで個人の自己喪失感や心理的感染をともなって、偶発的に起る求心的攻撃的または遠心的逃避的な群衆行動を背景としながら、人と人のつながりが大きな流れを生むことを積極的契機として捉え、表現されている。  
作者は、テーマについて探求し、数多くの試作を行い、独自の表現方法を確立させた。白い布の泡沫は、ポリエステルとポリウレタンの混紡糸によって織られた伸縮性に優れた白生地を、日本の染織技術である巻き上げ絞りを変化させた方法によって手で絞られたものである。それらは作品の構想を基に布を立体裁断し縫合した後、各絞りの高さが5㎜から150㎜(直径が3㎜から17㎜)になる9種類の絞りを約30,000個に絞り分け、強弱をつけて伸ばしながら布全体を畝らせて設置するというものであった。  
鑑賞者は、リズミカルな大きな流れが揺らぎのある小さな絞りから構成されていることを知るが、やがて、光の振れさえも取り込まれた情緒的な「個と群衆」の世界に自分を投影し、自分を無にして、ほどよい快さのなかに安らぎを感じる。  
本作品は、染織の知識を駆使し、日本の現代社会への問いかけを踏まえて制作されている。それ以上に、清純な広がりの上に艶やかさが加わった表層の裏から、作者が直接描かなかった人間社会の虚しさが浮き出してくる秀作である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

乾漆海洋生物箱 かんしつかいようせいぶつばこ

中村 美緒 なかむら みお

デザイン工芸学科 漆造形

460×200×130mm

漆、麻布、和紙、錫
漆芸・乾漆

アオリイカをモデルにして制作した乾漆造形による箱の機能を持ち合わせた作品である。イカが水の中で優雅に泳ぐ様を表現し、足やヒレの動きには試行錯誤を重ねている。また「変塗り」の伝統的な加飾技法を研究し、独自の表現方法を確立させている。具体的にはイカの皮膚の模様をベンガラや白の色漆でひとつひとつ点で打つ「高上漆」を施した後に錫粉を蒔いている。更にその上からスポンジで透漆を薄く何度も(多い部分は20回ほど)重ねて艶をあげることで、イカの透明感と奥から湧き出てくるような模様の立体感を表現している。造形的な表現でまとめるのではなく、漆の実用性を活かしたいという思いから、箱としての機能を持たせ、内側は外側の加飾、艶とは対照的に、呂色漆を塗りたててシンプルに仕上げている。作者は3年次前期より2年の歳月をかけて大小合わせ既に20点余もの作品を完成させており、それらは全て精密精巧で完成度が非常に高いものである。今回の卒業制作も細部の微妙な造形のこだわりから一見同じような作品を2点制作するなど、作者の造形に対する執拗なこだわりから生まれたものと言えよう。

優秀賞

つち

白川 麻美 しらかわ まみ

芸術学研究科 絵画研究分野 日本画

227.3㎝×181.8㎝

日本画・紙本彩色
和紙、岩絵の具、膠 等

白川麻美さんの修了作品「土」は、生物が生まれてから朽ちて土に還るといった自然界の壮大なテーマに取り組んだ意欲作である。
日本画顔料を存分に用いながら、うごめきそうな土をイメージしたテクスチャ―の中に、シャクナゲの花を白と黒で表現し、時間の流れや物質の変化を彼女ならではの表現方法を模索し取り組んでいる。生命はただ死んで無くなるのではなく、記憶として残っていくと考える彼女の意識が白と黒のシャクナゲの表現に繋がっていると感じ取ることが出来る。
日本画技法、材料研究とも確かなものがあり、完成度の高い秀作である。

優秀賞

Phase ふぇいず

甲斐杏奈 かい あんな

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

H 1455×W 2273mm ( M150号 )

パネル、キャンバス
油彩

甲斐杏奈さんは、カラフルな花々をクローズアップ撮影した写真画像を元にして、慎重に油絵具の色調を吟味して塗り重ねる手法による油彩画の制作を学部生の頃から継続してきた。大学院の1年生の時には「清風会作品奨励展買上げ賞」と呉医療センター主催「LOVE&SMAILES」展で買上げ賞を同じ年にダブル受賞した。その一貫してブレない制作態度によって、展開されてきた作品たちを通して、その研究の方向性は絵画と写真との関係性を掘り下げることへとフォーカスしてきている。イメージ、画像が氾濫する現代の情報化社会においても尚、写真をもとに絵画を制作する意味を巡り、作り手の立場から考察する内容の修士論文を提出した。日頃からその制作態度、および論文への取り組みの姿勢はどちらも共に真摯なものであることが認められる。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

"Stand Up!" Series

髙 瑞雪 こう みゆき

芸術学研究科 彫刻研究分野

ミクストメディア
毛、ラメパウダー、石粉粘土、犬の置物

高瑞雪の「"Stand Up!" Series」インスタレーション形式の作品です。
5個の座っている実物大の犬の置物を解体し、組み直すことによって、もともと座っている犬を立った姿に変えています。まるで動物たちが「立て!」というコマンドに対して反応したようです。よく見れば一個一個にまだ座っていた時の名残があり、それぞれの体にはキラキラする雲のような塊が付与されています。
作者の制作意図としては、この作品によって何らかの「転生」を起こそうとしています。座っている犬が立つことによって解放されて、さらに超自然的な物体へと変貌しています。この作品も関連の修了作品「Animals are Spinning Stars」も作者が学部の時から抱いている自然界への考えが反映されていて、造形的にも技術的にもクォリティークォリティーが高く、非常に叙情的でデリケートな彫刻です。作者は様々なメデイアを巧みに利用し、作品制作を行い彫刻の領域を広げています。

優秀賞

GEMME じぇむ

古川 千夏 ふるかわ ちなつ

芸術学研究科 造形計画研究分野 金属造形

作品1:200×200×h250mm
作品2:290×290×h90mm
作品3:250×230×h140             

有線七宝
銀、七宝

古川千夏は、「明治の超絶技巧」で知られる「並河靖之」「濤川 惣助」らの七宝の魅力に惹かれ、学部の頃から七宝の研究を始めるようになった。博士前期課程入学後も、従来の七宝の固定概念に捉われない新しい表現を生み出そうと、独自の展開によって表現の可能性を探ってきた。修了制作では、その成果として「GEMME」シリーズの3点を完成させ提出した。本作品の独自性は、有線七宝の有線(仕切)に使われる薄い銀製の綿材の扱い方にある。従来の有線七宝の有線は素地体に加飾される形のアウトラインとして、また釉薬の境界を築くための仕切の役割を持ち、仕上げの段階では均一な高さに研ぎ上げられて線のみが表出する。古川の有線は、その単なる線とは違い素地体の表層に凹凸が現れるように銀線の高さを通常のものより高く設定している。その高さを微妙に変化させ、素地体のフォルムと有線の要素が遊離しないよう、形と大きさを調整しながら立体的な存在感と微妙に変化する繊細さを共存させている。銀線は透明度の高い釉薬によって固定されるが、銀線を最も効果的に見せる厚さに留めることで銀線と七宝の互いの光の反射が色調にも変化を与える効果も重なり、素地体の造形と表層の造形が一体となって魅力的な立体作品となっている。本研究では、地道な実験を繰り返し、失敗の許されない工程を克服するとともに、技術的にも精密さと優先の安定性が求められる高い技術を修得し、新しい有線の表現の可能性を見出した。

優秀賞

星落燦々図屏風 せいらくさんさんずびょうぶ

梅田 綾香 うめだ   あやか

芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形

W3642×H1842×D25 mm
四曲屏風

蝋染
綿サテン、反応染料

鮮やかな染料の色彩とモミジの大木に鹿をあしらった大胆な構図が印象的な『星落燦々図屏風』と名付けられた四曲一隻の蝋染の屏風は、宮島の弥山の原生林を舞台に繰り広げる生き物たちの輪廻転生図が描かれている。屏風の右側が現代に生きる鹿の番いで、不安定な足場ながらも自らの立ち位置を確かめるように現代の街並みを見下ろしている。そして、左側はそれらの前世のもので、深い森の一隅で精霊たちによって、鎮魂の儀式が執り行われている状況を表している。モミジの大木によって二つの場面、前世と現世が繋ぎ合わされ、森羅万象が連鎖しているように画面に配置されている。また、絵画における“異時同図法”を取り入れ、右画面から左画面への時間的・空間的な転換をモチーフの描き方や染め方の表現の違いを巧に使い分けながら表されていることに高度な力量を感じる。モミジの葉が青葉から紅葉し赤く染まり、流れ星のごとく聖なる場所に降り注ぎ消えていく宇宙の摂理を叙景的に描いているが、そこには生と死に対する畏敬の念や、作者自身もその自然の一部といった静かで強い想いが込められている。