2016年度
優秀賞 / 芸術資料館買い上げ 作品

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

きみにみるもの きみにみるもの

明壁 美幸  アスカベ ミユキ

美術学科 日本画専攻

F150 号

日本画・紙本彩色

 明壁美幸さんの卒業制作作品「きみにみるもの」は、背中合わせの二人の人物が描かれた150号の大作である。二人の人物は「きみ」一人であり、外見と内面の両面を表現したものと思われる。皮膚や髪の色味を反対色にし、「座る・立つ」のポーズに差をつけることにより、日常的な題材を用いながらも心象的な表現が強く印象に残る作品となっている。
淡くモノトーンを基調とし、中心となる人物の表現は鮮やかな色彩でポイントを置き、目や口の表情にも緊張感と強い意志を感じ取ることが出来る。背景のモチーフは自転車や洋服、本棚等を巧みなバランスで画面に配置し、小気味よいリズム感で描かれている。イメージを二重三重と重ねることで、現実と空想を織り交ぜた非日常的な雰囲気を作り出している。大胆な画面の構成力とそれを裏付けるデッサン力とが評価できる秀作である。

優秀賞

憶い象り・想い彩る オモイ カタドリ・オモイ イロドル

杉浦 沙恵子 スギウラ サエコ

芸術学研究科 絵画研究分野 日本画

F200号

日本画・紙本彩色

 修了制作「憶い象り・想い彩る」はカウンターを中央に、ステンドグラスを背にした二人の女性と、無数に置かれたガラス器のなかで泳ぐ魚、その器に留るインコや梟たちを岩絵具の質感を生かし色彩豊かに描き込んでいる。画面構成は机上に座る女性のうつむいた表情を起点に右へと回遊しながら見る者の視線を誘導する。また、カウンター越しに溢れる光は同じ空間を共有しつつ、それぞれが交わる事の無い別々の時間の流れを瑞々しく演出している。共有される空間と孤立した世界、そこに等しく流れる時間の狭間を描出しているようである。それぞれの想いが浮遊し交錯する様を丹念に描き込んだ秀作である。技法研究に於いては絹本の裏彩色から着想したものを各所に用いている。薄い和紙を蜜蝋で半透明な状態にし、その裏から色箔や銀箔で彩色したものをコラージュし効果的に用いている。その効果もあってかレイヤーを重ねたような奥行きを感じる事の出来る作品となった。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

瞬き -春- -夏- -秋- -冬- マタタキ -ハル- -ナツ- -アキ- -フユ-

加藤 望 カトウ ノゾミ

美術学科 油絵専攻

420 x 594 mm 4枚

銅版画(メゾチント)

 作者の幼少期を題材に着想を得た『瞬き』と題されたこの4点の連作は、17世紀前半、オランダで発明されたメゾチント技法と呼ばれる銅版画の技法を用いた作品である。加藤はテーマを選ぶにあたり、自身が体験してきた個人的な記憶やノスタルジーの描写のみにとどまらず、四季の移り変わりによって自身の成長を表現することを主眼にして制作を行った。これは今回、この卒業制作とは別に並行して制作された1連の版画作品によっても明白であり、この試みは彼女自身が目標としている版画による絵本制作におけるストーリー性の構築と、幼少期の心理を振り返るといった今後における制作計画の展開とも深く関わっている。つまり本作品は加藤にとってただ単に一過性の作品としてではなく、自身の幼少期の体験と絡め、絵本制作のためのステップとなるよう計画された試みであったと言える。
 こうした今後を見据えた長期にわたる展望の中で、本来膨大な時間と手間を要し、難易度が高いとされるこのメゾチント技法を用いて、卒業作品制作という限られた期間内において一定量以上の作業をこなし、密度を伴った画肌の獲得と今後の研究活動のための試みをなし得たことを評価の対象としたい。

優秀賞

Landscape (2015.09.14)Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ Landscape (2015.09.14)Ⅰ, Landscape (2015.09.14)Ⅱ, Landscape (2015.09.14)Ⅲ

青原 恒沙子 アオハラ ヒサコ

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

各 F130号

平面作品 3点組 パネル、ミクストメディア

本作は、学部在籍時より絵画のシークエンス化を試みてきた青原恒沙子の総決算といえる絵画作品である。
 青原はレイヤーという言葉をスティトメントで多用するが、それは青原がドイツ留学中に通学手段として毎日乗っていた遠距離電車での体験に想を得た結果であるという。例えば、車窓から風景を眺めたとして、注視点を遠景に定めた時の、遠景の変化の乏しさ、中景の車体の速度を反映し目前を流れる風景、そしてもはや視認できないほど素早く通過する近景といった、ひとつの視界に共存する実景のレイヤー構造に、私たちは日常的に気付かされる訳だが、青原の制作は、情緒的な見え方(=記憶)の差異についても言及しようとするものである。情緒は現代では見過ごされがちな価値であるが、本作品は絵画と写真、映像とのあわいに立つ絵画作品を創出しようとする意欲的な作例として高い評価を受けた。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

Hopeful drowned body Hopeful drowned body

西村 七海 ニシムラ ナツミ

美術学科 彫刻専攻

H 213 × W 82 × D 79 (cm)

セメント鋳造

 本作品は、作者自身の身体を型取りしセメントに置き換えたものであり、逆さまに立てられた身体の頭部が透明樹脂のキューブに埋没しているという構成になっている。 作者曰く、テーマは「未来への期待感に溺れながら浮遊する重たい身体」ということである。つまりこれは現在の作者の心境を吐露する自刻像であり、大学卒業を前に若者特有の万能感と社会性を強いられる現実の間で身動きが取れない葛藤を表してる。このような心持ちは誰もが一度は持つ普遍的な感覚であり、人間が成長し大人になるにあたって避けては通れない通過儀礼的状態と言える。本作品は、このような命題を表現するための技法・素材・構成を巧みに選択し彫刻として昇華している。自身の身体の型取りから成形されたbodyは、即物的であり感覚から切り離された存在として提示されている。また、逆さまに設置された状態は平衡感覚を失い地に足がつかない浮遊感を示している。さらにセメントと鉄筋というビルなどの建築物を連想させる素材は、その重量感もさることながら実社会のメタファーとして捉えられ、社会人にならなければいけないという思いで萎縮する心境を表している。しかし萎縮する身体をよそに頭の中は未来への期待感に捕らえられ、息もできないほどである。素材の選択と構成によって作者の心境がダイレクトに鑑賞者に伝わって来る。そして、台座に設置することでこの現在の状況を外部化し一つのモニュメントとして、あるいは過去として切り離し、次の一歩を踏み出そうとする積極的な姿勢もうかがえる。このように本作品は、作者の切実な心境を通して、若者が葛藤の中で成長を模索する普遍的な姿を表すものであり、テーマに対し彫刻的な表現が不可分なく成立した好例と言える。

優秀賞

We never sleep We never sleep

山本 佳織 ヤマモト カオリ

芸術学研究科 彫刻研究分野

H 270 × W 360 × D 550cm
台座込み サイズ   H 303 × W 82 × D 79cm

鉄、塩
鉄板に錆び付け

 山本佳織は、現代における身体観をテーマに作品制作を行っている。昨年夏にドイツ留学から帰って以降は、パフォーマンスを中心に活動し、自身の感情や感覚を自らの身体を使って表現している。
 本作品は、このパフォーマンスを彫刻作品として成立させようとした意欲的な試みである。作品は、作者自身が「人拓」と称しているように、鉄板に塩水をまき、その上で長時ポーズを取り動かずにいることで、鉄錆によって人の動きが固定化され視覚化される。
 学部時に金属工芸を専攻し、大学院から彫刻分野に進んだ山本は、自らの表現を模索する中で、ドイツへの交換留学を機にパフォーマンスという表現に出会い、自らの身体によって言葉にできない感情や感覚を表現するという方法を見出した。そしてそれを彫刻として成立させたいと言う思いに駆られ、本作品に挑み、完成させた。
 作品『We never sleep』は、彫刻表現に新たな可能性を見出した秀作であり、優秀賞にふさわしい作品である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

Light Of Information Light Of Information

木村 日咲子 キムラ ヒサコ

デザイン工芸学科 視覚造形

W 1150 × H 820 × D 26.5 mm × 6

アルミ複合板/木製パネル6点
Photograph inkjet-print

 1年以上一つのテーマを徹底的に探究し提示された6点の画像作品からは、強い作家性と高いレベルでの表現力を感じられ、優れた作品と認める。
テーマは、「存在感があるのに意味をなくした交通標識を提示し、なぜそこに情報があるか気づいてもらう」
 昭和30年代頃からのモータリゼーションは、日本の自動車台数の急増に伴い、道路交通法に準じて交通規制を強化せざるをえず、道路標識の設置数は際限なく増え続け規制内容も見づらく判りにくい状態になっている。国土交通省が平成元年に設けた「標識Box」というサイトの中で道路を利用する人からの意見を基に改善を図っているが、機能せず危険な状態と言えるところもある。
こうした社会問題に注目し、調査と考察、64箇所7502の画像からクリエイターとして作品表現の昇華につなげている。
 木村は、2年ほど前から「日常の中の非日常」をテーマに画像による制作に取り組み、視覚伝達による情報の役割に興味を持ち、日常的に関る物をモチーフにし、情報を消すことで表現をしようと時間や場所など様々な条件でとらえようと試み、通常夜間の風景写真では使用しないフラッシュを使用して撮影することにより、他の看板は反応がないのに、表面に反射塗料が塗られている標識だけ白く光り情報が瞬間的に消え光で描くPhotograph(光の像)ならではの表現と言える。
 6点1組の作品は個々に展示されていながらも、作品だけが眼に映るよう工夫されたパネルを制作、丸・三角・四角などの幾何学的な図形が暗闇の中で怪しく光る標識を画面の中で配置することによって不思議な浮遊感と独特のリズム感を与えている。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

寂 寥 セキリョウ

中西 紗菜 ナカニシ サナ

デザイン工芸学科 金属造形

H 1,300 × W 370 × D 630 ㎜

アルミ、鉄
鍛金・彫金技法

 本来鳥は、その外観から鳥自体の感情を把握する事は困難な生き物である。作者は、動物園で見かけた「ヘビ喰い鷲」のスマートで女性的なフォルムの美しさに引かれ、この鳥をモチーフに、女性の内なる感情を表現しようとした。鳥を女性的なフォルムに変換する事と合わせ、顔の表情に彩色を施すことで、より女性の憂いある表情を創出しようとした。若い女性のどことなくもの悲しい孤独な感情表現に繋げていっている。アルミの板を使い、鍛金・彫金の技法を用いて羽の持つ軽やかさと艶やかさ、色調を表現しながら、感情表現に繋げるフォルムを根気強く探り出している。また、この鳥の特徴である羽の黒色はアルミニウムを化学的に酸化させた酸化色を応用し、フォルムを壊さないよう慎重に調整している。足は、鉄材を使い、鍛造技法と熔接を使って力強く表現し強い生命感をも表現している。以上の様に卒業制作として、完成度・表現力ともに優秀な作品であると評価した。

優秀賞

水響の韻律 スイキョウ ノ インリツ

佐藤 衣里 サトウ エリ

芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形

H 1480 × W 2240 × D 45mm

檜、綿糸、インド藍
藍染、絞り染め、斜面加工研磨仕上げ

 『水響の韻律』は、藍で染め分けられた小さな檜の四角錐の集合体(960個)が、菱形紋様に構成されている作品である。藍色の繧繝暈かしの中から、無数の菱形紋様が、揺らぎつつ浮かび上がってくる。近づくと、さらにその紋様は、糸が巻かれた軌跡の集積によって描かれていることを知る。それはあたかも水面に浮かんだ菱の葉とその白い花弁が風に揺らいでいるような、あるいは舞い落ちた雪花が落ちては消えて行くような、清逸な景色である。作者は、スギやトチ等の約15種類もの樹木に斜面加工と研磨仕上げを行い、藍で染色した結果、糸による防染が最も効果的であり、且つ最も美しく発色する「檜」に着目し、日本の絞り染めと融合させた。本作品は、檜の四角錐を綿糸で防染することによって3パターンの幾何学模様を表し、淡色から濃色までの10段階に染め分け、規則的に組み合わせている。これらは、これまでにない新しい芸術表現として誕生させるものである。完成するまで全体像が見えないという難しい制作過程にもかかわらず、作者が追求してきた「ゆらめき流れる時間軸」は、藍色と揺らぎのある直線と四角錐による陰影によって、精巧に艶やかに表現された。優れた研究と卓逸した技術に基づいた秀作である。

優秀賞

綴錦生命境膜図 ツヅレニシキ イノチ キョウマクズ

平濵 あかり ヒラハマ アカリ

芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形

H 1800 × W 1800mm

毛糸、綿糸、金糸、銀糸、酸性染料

綴織

 『綴錦生命境膜図』は、祖父の霊魂への鎮魂の想いを込め、20代の死生観を、大胆な構図と鮮やかな色彩で表現した綴錦作品である。作品には、死、輪廻転生、多産、平和、人生の賛美、日本などのイメージが、頭蓋骨、鳩、羊、レモン、バラなどによって象徴的に表されている。作者は細い毛糸を美しい色彩(30色)に染め分け、一糸一糸を織り重ねながら、「生と死によって織り成された境膜が今という一瞬である」と想う。鑑賞者もまた、独特な織色によって艶やかに描かれた生命と死の象徴を、赤と黒の格子柄のレイヤーを通して体感することで、生と死の境界を行き来する。
 作者は日本とフランスの伝統的な綴織の技術の上に立ちつつ、綴織の構造について真摯に立ち向かい、卓越した染織技術と豊かな感性によって、実像と虚像、純粋無垢な感性と危うさが入り混じった世界を繊細に表現し、荘厳な作品を完成させた。
 本作品は、テーマ、構成、色彩、素材、染色技術、織技術が、見事に融合した秀作であり、デザイン工芸学科の第20回修了制作優秀賞に相応しい作品である。

優秀賞

漆坤 シッコン

吉田 真菜  ヨシダ マナ

芸術学研究科 造形計画研究分野 漆造形

65cm×55cm×3cm


髹漆

 作品は漆の塗り重ね行為(161回)のみで制作されている。この漆の塗り重ねで表現する行為は学部3年のテーマ制作から始まり現在まで継続的に研究されてきた。修士の論文においても関連する表現として中国や日本の堆朱,彫漆などの伝統的な加飾表現の歴史を紐解きながら,独自の造形表現を確立している。具体的には、従来の伝統技法に見られる木や金属,陶器などの胎(素地)に塗り重ねて造形していた方法から、塗り重ねだけで造形表現した事である。更には色漆など顔料を一切添加しない黒目漆(透漆)だけであり、この2点を含めた表現方法は今迄に事例がなく、漆の素材、特性をうまく引き出しながら生命力のある強い作品に仕上げている。以上のことから博士前期課程の2年間における制作態度や創造性、作品の展開など総合的に特に優れていると評価し、修了制作優秀賞とした。