2015年度
優秀賞 / 芸術資料館買い上げ 作品

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

化石 カセキ

南谷 知子 ミナミタニ サトコ

美術学科 日本画専攻

H 1818 x W 2323 mm 150号

岩絵の具、和紙

 題名の「化石」は言葉通りの意味ではなく、対象を存在や時間ごと平面に押し込める意識から出た言葉であると思われる。
 確かに様々な視点で捉えられ、大画面に塗り込まれた無数の蓮の葉は、あるものは枯れ色の中で折りたたまれ、また、かたちも色彩も潰れ無彩色を施される物もあり化石の様相を呈してはいるが、目をこらすと強靭に立ち上がる蓮の実や茎の張りのあるかたち。また、瑞々しさをたたえた葉の柔らかな線を見ることができる。画面隅には小鳥が自然なかたちと緊張感とを伴って配されており、画面が単に平面的に構成されたのではなく、徹底した自然観察と自らの作画意識をもって作られた温度や湿度を感じる空間表現であることを物語っている。
 日本画技法、材料研究とも確かなものがあり、完成度の高い秀作であると考える。

優秀賞

Futile voices フータイルボイセズ

仲塚 玲史 ナカツカ レイシ

美術学科 油絵専攻

H 1620 x W 1363 mm 100号

キャンバス、油絵

 陰影を描写することによる古典的な絵画表現から造形要素を抽出して独自の視点で再構成するという、創作上のセオリーを刷新しようとする仲塚玲史の本作品での取り組みは、独自な進展の見られる秀作となった。絵画を単に視覚的に再現されたものとみなす視形式と哲学的な図像的な形式とを結びつけようとする仲塚の目論みはモチーフの設定段階から徹底しており、見ることと描くことが結晶するかのような垂直的な視座が本作品の中には見受けられる。

優秀賞

狼のとうめい オオカミノトウメイ

高 瑞雪 コウ ミユキ

美術学科 彫刻専攻

H 2600 x W 3600 x D 2400 mm

ミクストメディア

 作品は二つの部分で形成されているインスタレーションです。
 そのパーツは床に大きくたたずむ狼と壁にあるドローイングです。高さ3メートル、長さ4メートル近くの狼はスケール感のある立体でビニールホースと木の細い角棒で出来ています。ドローイングのモチーフは雪景色の中にいる狼です。ドローイングの半分以上は穴あけパンチで破壊され、そのパンチで出来た細かい紙片がビニールチューブにいれられて電気のブローワの風で狼の身体を循環しています。2次元のドローイングが3次元の立体の中の活力源になります。狼の形はホースの躍動感のある螺旋で語られ、作家が自然は不動ではなく流動的なものだという主張が力強く表現されています。
 ドローイングと立体で本人が長い時間をかけて実験しているシリーズの大作で、絵画の詩的な要素も併せ持つ、彫刻的なスケール感のあるインスタレーションです。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

龍姫湖図 リュウキコズ

梅田 綾香 ウメダ アヤカ

デザイン工芸学科 染織造形

H 2750 x W 2750 mm

木綿、化学染料、プラチナ箔

 『龍姫湖図』は広島県北の温井ダムに沈んだ村の民話を題材とし、その伝承と歴史を蝋染めの技法で表現した作品である。
龍姫湖という人造湖に沈む村には昔から「江の渕の大蛇物語」という民話があり、現在もなお語り継がれていている。その物語の大蛇は水神(龍神)であり、水と村人を守護するシンボルとして描かれている。
 蝋染めで染められたパネル作品は、サイズが縦横275cm四方の迫力の有る大作であり、寺院の天井に描かれる“龍の図”を意識しながら円形の構図をとり、時の推移によって変わって行く村の姿を龍神の視点で丁寧に描く事で、過去から現在、そして未来の村への思いを馳せている。 また、染料の特徴を生かした透明感のある色彩や水に依る染料の動きを巧みに使い、湖面に映り出された主人公の龍姫と村の歴史を古井戸や望遠鏡を覗き込む様な視点で現わしたところもユニークであり、物語性を強調させている。
 大画面でありながらも隅々まで手を抜かない作者の真摯な制作スタイルが反映された秀作である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

オアシス

藤田 えりか フジタ エリカ

デザイン工芸学科 現代表現

H 1406 x W 980 x D 35 mm 4点

バックライトフィルム、塩ビ板

 藤田の作品のタイトルは、『オアシス』で、4社のコンビニエンスストアがライトボックスにより、神々しく光輝く、いつものコンビニエンスストアが日常の世界から匿名の聖なる場所へとイコン化され、日常のオアシスの空間から昇華されたかの様である。
 コンビニは、現代社会の中で、とても重要で我々にとっては,切っても切れない存在であるが、その反面、ネガティブな側面も拭えない。現代のリアリティーのあるテーマを写真媒体を通して、表現した秀作である。作品は、コンビニの前に三脚をたて、シャッターを開放しながら、フォーカスをコントロールするといった方法で制作されている。

優秀賞

浄瑠璃姫物語奈良絵 ジョウルリヒメモノガタリナラエ

三内 菜緒 ミウチ ナオ

芸術学研究科 絵画研究分野 日本画

H 2850 x W 430 mm

紙、墨、岩絵の具、金泥、薫銀泥

 修了模写作品「浄瑠璃姫物語奈良絵」は、牛若丸と浄瑠璃姫との逢瀬を題材とした「十二段草紙」の一場面を描いた作品である。大学資料館に収蔵されている原本を調査し、使用されていた彩色、技法を考察した。的確な上げ写しの後に胡粉、黄土、焼白緑を混ぜたものを下地に塗り、朱や群青、緑青を使って模写した作品である。
 特徴的な技法として、原本の経年変化によって変化した彩色を考慮し、それに合わせた色彩を再現する事である。日本画の絵具の特徴でもある、顔料を焼き、酸化させて微妙な色調の変化を巧みに再現した。同時に絵具の粒子と材質感も表現されている。それにより原本から感じる素朴で鮮やかな色彩が再現されている。また観察力と考察力、それを表現する確かな技術力がこの作品から感じる事ができる。
 作者の古典作品を研究した技術力と膨大な制作時間を費やした努力によって描かれた秀作である。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

偽りの イツワリノ

行 晃司 ユキ コウジ

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

H 2273 x W 1620 150号

キャンバス、油絵

 学部生の頃から人物画を描くことを好んだ行晃司は、大学院に進んでフェルメールに代表される17世紀オランダの風俗画や、19世紀末のデンマークの画家ハンマースホイの作品から、よりテーマ性を重要視する作風に変化した。
 この修了作品は、それらのオマージュ的な意味合いを持っている。画面空間に壁を設定しその奥にまた別の空間(部屋)を配置するオランダ風俗画の方法を取ることで、作品世界の奥行きを更に深くすることに成功しており、絵画史研究と絵画制作の両面を巧みに繋いだ完成度の高い作品として評価できる。

優秀賞

空想と虫籠(イナゴ) クウソウトムシカゴ(イナゴ)

尾身 大輔 オミ ダイスケ

芸術学研究科 彫刻研究分野

H 1500 x W 2500 x D 3200 mm

 本作品「空想と虫籠(イナゴ)」は、他2点の修了提出作品の一つである「空想と虫籠(カマキリ)」の制作後、その被食者という設定で制作された。
 それぞれ独立した作品であるが、作者は今後予定されている展示空間において、ある物語を空想し2つの作品を同一空間に配置することを想定している。 ”イナゴ ”は農作物を食い荒らす害虫として古来恐れられてきた。対してイナゴを捕食する”カマキリ”は農家の守り神として祀られてきた歴史がある。作者の空想の中でイナゴは農民たちに追い立てられ飛び立ち身を移す。しかしその身は、作者の手によってカマキリの面前に生き餌として配置される。本作品は、再び飛び立とうとするイナゴの、羽を広げた一瞬を捉えたものである。
 害虫と益虫、被食者と捕食者。人間の都合によって色分けされた命の価値と自然界の摂理としての生と死。作者は、2種の昆虫を通して命の推移を人間として観察している。久しく使われていない倉庫を展示会場に、小さな命の物語がクローズアップされる。作者の空想空間となる空き倉庫はいうなれば作者の脳内であり作品の鑑賞者は否応なく作者の脳内でこの命の物語を共有する。
 作者が学部・研究科を通して培ってきた木彫の技術と、”生命 ”への真摯な眼差しがリアリティーをもった空想として結実し、静かなそれでいて緊張感のある彫刻表現を実現している。目まぐるしく変化する現代社会において、ともすれば風化しそうな命の物語が、木材という生命を感じさせる素材と卓越した彫刻技術により、普遍的な命題として顕在化されている。
 作者の、時代に流されることなく自身の眼差しを表現しようとする確固たる姿勢と、鑑賞空間そのものを変容させ、その世界観を見るものに直接的に体感させる表現技術を評価する。

優秀賞

recording medium レコーディングメディウム

粕谷 優 カスヤ ユウ

芸術学研究科 彫刻研究分野

H 3300 x W 1630 x D 1270 mm

小豆島町役場の古紙、ボンド

 粕谷 優の作品「recording medium」は、紙を使って木の切り株を表現したものである。
 作品のモデルとなった切り株は、粕谷が2015年の夏にアートプロジェクトのために滞在した、小豆島(香川県)の元小学校の校庭に実際にあるもので、作者はその切り株の年輪に廃校となった小学校の歴史を感じ取り、その歴史の積み重ねを一つの造形作品とすることを試みた。素材の紙は小豆島の案内チラシや出版物等、小豆島の産業や文化・歴史に係る様々な印刷物を使用し、一枚一枚の紙を切り株の形状に巻き付ける方法で制作している。
 粕谷は、大学院の二年間を通して「言葉と造形」を研究テーマとし、その象徴として文字の書かれた紙を素材に木材の形状をした彫刻を制作して来た。そこには言葉(文字)によるコミュニケーションを、造形に置き換えようとする粕谷の研究姿勢が伺える。
 作品「recording medium」は、彫刻の新たな展開を予感させる秀作である。

優秀賞

JIZAI ジザイ

吉田 葉瑠日 ヨシダ ハルヒ

芸術学研究科 造形計画研究分野 金属造形

H 90 x W 300 x D 100 mm

鍛金、ロウ接

 江戸時代から明治にかけて流行した自在金具(自在置物)がある。嘗て甲冑等を作っていた職人達が、本来の仕事の需要が減っていくなかで、持ち得る技術を自在金具といった新たな造形物(工芸)に活躍の場を求め競って制作したものである。これらの自在金具は、龍のような架空の動物や身近な動物(蛇、魚、蟹、海老等)がモチーフになっていることが多く、素材も鉄が主流であった。
 吉田はモチーフとして日本にはいないアルマジロを選択し、その鎧を身に纏った様な特徴を自在金具の機構として巧みに取り込み、自在金具の伝統的な素材であった鉄を洋白(銅と亜鉛とニッケルの合金)に置き換え、また、造形面においてはディテールを抽象化することで、古来の自在金具の持つイメージとは異なる印象の作品に仕上げている。技法は鍛金技法を主としながら、ロウ接を駆使して理想の形を具現化している。主素材の洋白は合金素材特有の扱い辛い性格を持つが、試行錯誤の中で技術的困難を克服しているところも高く評価出来る点である。
 作品「JIZAI」は、自在金具といった様式をとりながら、新たな時代性を感じさせる自在金具としての可能性と完成度を感じさせてくれる秀作である。
(胴体や関節を動かすことのできる。頭、胴体、尻尾、耳、指、爪の6ヶ所が動く。)

優秀賞

経絣着物「おわりとはじまりの海」 タテガスリキモノ「オワリトハジマリノウミ」

久保田 寛子 クボタ ヒロコ

芸術学研究科 造形計画研究分野 染織造形

H 1700 x W 1700 mm

平絹(21中の10片)、真綿紡ぎ糸(220D)、すくも藍、茜、ラック、杏、桜、栗、梔子、渋木、臭木

 作者は博士前期課程の2年間に「旅」をテーマとした一連の作品群を制作し、経絣、緯絣、経緯絣などの変化に富んだ技術と天然染料について探究してきた。
 修了作品「おわりとはじまりの海」は、広島の能美島や瀬戸内海の島々に伝わる風習で「遠方からの旅人にご馳走をしてもてなす」をテーマとしている。船尾波や泡を表現した絣紋様がリズミカルで心地好い。瀬戸内海の海松色や藍色を基調とした青から緑までの繧繝暈かしと茜色の織色は、艶やかで美しく、作者のコンセプトである「50代の旅を終える旅人が次の新しいはじまりをむかえる」ための讃歌を奏でるようだ。加えて、自ら考案し改良を重ね完成させた「ロープ絞り絣」によって繊細な緊張感が生じている。
 桜や杏を栽培し、すくも藍、蓼藍、茜などの染料を作り、新しい絣紋様を創造するという優れた技術と大変な労力によって作者の世界感が凝縮された本作品は、高度な技術と独自の瀬戸内海のデザインが結集した秀作である。