2013年度
優秀賞 / 芸術資料館買い上げ 作品

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

夜明けを待つ ヨアケヲマツ

叶丸 恵理 カノマル エリ

美術学科 日本画専攻

H 1818 × W 2272 mm 150号

岩絵の具、麻紙

 卒業制作「夜明けを待つ」は、広島の街を見下ろす高いビルからの眺めをモチーフに、夜の闇から移り行く朝日の気配を凄みのある表現で描いた秀作である。堅牢な画面構成と確かなデッサン力により、無人の風景に人々の営みが暗示され都市の無機質な表情と作者の有機的な視線とがせめぎあう緊張感が見る者に迫る。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

平良 円 タイラ マドカ

美術学科 油絵専攻

H 1303 × W 1940 mm

パネル 綿布張り、エマルジョン地、油彩

 平良円の卒業制作は、親しい友人をモデルにして、「人間」の記憶と歴史の連関に自らが絵を描くことの意味を合わせ、その思いの中、単なる個人の肖像ではない人間全体のたゆたいの仮象をも描こうと目論んだものである。作者の意気込みとは裏腹に仮象を実在の画面に浮かび上げらせることには成功していない。しかし仮象を追い求める欲求は具体的に絵の具をどう置いて行くのかの客観的な判断の力を磨くことになった。一見、平凡で習作的な作品であるが、何回となく塗り重ねられた微妙な階調を持ち、本来の絵画そのものの不可思議さをかいま見せる秀作となった。

優秀賞

タイムライン

粕谷 優 カスヤ ユウ

美術学科 彫刻専攻

H 1400 × W3000 × D 1000 mm 450kg

 木の生(せい)の証となる年輪に着目し、鑑賞者に時間の積み重ねを感じさせる作品とすることを意図している。木の表面を円形上に彫り込み、年輪の美しさを見せる大作であるが、木の表面に施された作業が主であり、大木の年輪全体が示す長い時間の蓄積を感じさせる表現にまでは至っていない。しかしもう一点の卒業制作となる塑造「無題」は人体の複雑な構造を良く理解し、全体構成と細部表現を造形的にまとめあげ、彫刻造形の基礎を見事におさめた作品となっている。これら2点の作品を総合的に評価し、優秀賞とした。

優秀賞

飾暦72候 カザリコヨミシチジュウニコウ

原 望美 ハラ ノゾミ

デザイン工芸学科 視覚造形

H 147 × W 208 × D 20 mm
包丁サイズ 桐箱 H 160 × W 230 × D50 mm

紙にデジタルオフセット、桐(箱)

 原望美の卒業制作は、日本に存在する暦の「72候」という分類に注目し、制作したカレンダーである。細やかな時節の変化を表した暦の魅力を、対応する72のグラフィックで表現することにより現代の日常生活に再提示しようとするものである。
 作品制作にあたっては、72の候名に含まれる言葉の意味や使われ方や、使われている言葉の相互関係、節季毎の特徴などについても、文献調査を中心に詳細な研究が行われている。また、そのグラフィック化に際しては、和菓子、家紋、着物のテキスタイル、花丸文様などに代表される伝統的な文様を中心とした日本における図像表現の調査に加え、京都などの和紙雑貨店での資料収集といった現地調査も行いながら、現代的なグラフィック表現と、古くから親しまれた図像表現の融合を模索している。こうした地道な過程に裏付けられた制作によって制作された72のグラフィックを通じて、候名に込められた時節の変化が、現代社会に生きる私たちにも、再び身近に感じ取れるようになった。
 グラフィック表現は、実際にシルクスクリーンでベタ版を印刷してテクスチャの収集を行うことで、コンピュータを使用していながら、版刷りの様なテクスチャの質感を表現することを可能にした。また、印刷方法やグラフィックにあう印刷用紙の選定にも、細心の気配りが施されている。こうした徹底した情報収集・技術的研究を行うことによって、本作品が完成度の高い作品になったことを高く評価し、優秀賞とした。

優秀賞 / 芸術資料館買い上げ

All behind the scenes オールビハインドザシーンズ

篠原 唯紀 シノハラ ユキ

デザイン工芸学科 視覚造形

ミクストメディア

 篠原唯紀の卒業制作は、牛一頭分の牛革からなるコスチュームが3セットと、それらをモデルが身に纏った写真6点からなる、「命を着る」というコンセプトの作品である。ディテールに目を向けると、衣服のパターンデザインには、皮革の持つ曲線などを取り入れているほか、バッグや靴に至るまで一つのスタイルとしてつくられていることに気づく。コスチュームの裏側には赤い肉の写真が印刷されており、この作品の素材としての皮革が、かつて一匹の牛の皮膚であったという事実を想起させる。しかし、作者は「あくまで女の子のファッションとして、かわいらしく」見えることを重視している。具体的には、肉というものの見た目の生々しさやグロテスクさに、作品のイメージが収斂することのないよう、パターンのプリント時に数ミリほどずらして2回プリントするなどして、その見え方を細かく調整する工夫を施している。
 ファッショナブルでかわいいものを身に纏うことが、かつて牛の皮膚であったものを身に纏うということに他ならないという事実を、かわいさやグロテスクさ、洗練さといった様々な感覚が絶妙なバランスで同居する、繊細な表現で提示することに成功したことを高く評価し、優秀賞とした。

芸術資料館買い上げ

君の言葉を訳せない キミノコトバヲヤクセナイ

筒井 藍 ツツイ アイ

美術学科 彫刻専攻

H 1650 × W 350 × D300 mm 3体 各 10kg 150号

FRP 塗装

 筒井藍の卒業制作「君の言葉を訳せない」は、等身の人体の一部に球や箱や泡のような人体以外の要素が加えられた、不可思議な人体による群像である。作品は同じ原型から型取りした同形の3体を元に、それぞれに球や箱や泡状の形態を加えたもので、3体共にポリエステル樹脂でつくられている。 タイトルである「君の言葉を訳せない」が示すように、筒井の制作意図は現代人の微妙なコミュニケーションの在り方を彫刻として表現しようとしているようで、筒井の卒業制作は、現代における人体表現の可能性を探る取り組みでもあった。完成作は、無機的な印象を持ち、筒井の考える現代の人物像が造形化されている。

優秀賞

重い葉 オモイハ

森下 恭介 モリシタ キョウスケ

芸術学研究科 絵画研究分野 日本画

H 1818 × W 2590 mm

パネル、額装

 森下恭介君の「重い葉」は200号いっぱいに枯れかけた蓮の葉を描いた大作である。キャンバスを支持体として荒い岩絵具を塗り重ねた画面から滲み出る重厚さや、荒く鈍い色調の空間からは、題名の通りの重々しさを感じるが、そこからは決して鈍重とはいった感想は生まれない。むしろ、幾度も対象に向き合い素描を重ねた結果から生まれた造形や構図、厚いマチエールに抗うべく研究をかさね吟味された岩絵具の色彩効果などが相まって、緊張感を伴った繊細な切れ味までも感じさせる秀作である。大画面に向き合いモチーフも色調もぎりぎりまで絞って画面を作り上げた描写力や構成力、また日本画材料ならではの効果的な色空間の構築は高く評価する。

優秀賞

ロクス・アモエヌス 椿 ロクス・アモエヌス ツバキ

手嶋 勇気 テジマ ユウキ

芸術学研究科 絵画研究分野 油絵

H 2273 × W 1818 mm

パネル、カゼインテンペラ、油彩、フレスコ、ストラッポ

 1世紀初頭のフレスコ画「アウグストゥスとリウィアの庭園画」に魅かれた手嶋勇気は、自らローマに赴いてその技法の秘密を探るべく、ロマネスクのフレスコ画の技法研究を行った。「閑暇を愉しむ」(オフティウム)の図像をテーマに、綿密な下図の制作と、ジョルナータによるレンガ壁画への計画的な制作を積み上げて、ストラッポによる、画布の上に石灰層を移し取る作業までも行った。更に、カゼイン・テンペラによる加筆を施すという手嶋なりの方法論を確立し、その鑑賞者に或る美観感を喚起せしむる企みは、高いレベルで結実しており、今後の展開を期待できる秀作となったと言える。

優秀賞

Homage to Noguchi’s Cenotaph オマージュトゥノグチズセノタフ

久保 寛子 クボ ヒロコ

芸術学研究科 彫刻研究分野

H 4000 × W 7500 × D 2600 mm 200kg

 「Homage to Noguchi's Cenotaph」は、彫刻家のイサムノグチがデザインした広島の原爆死没者慰霊碑を、鉄の骨格によって再現したものである。ノグチ案は、日系アメリカ人というノグチの出自を理由に実現されなかったが、久保は作家の文書に書かれていた数字と模型から実際の慰霊碑のサイズを割り出し、石の継ぎ目の部分を鉄のフレーム構造に置き換えて、ノグチ案を原寸で表現した。 この作品は2013年の夏までの2年間久保が留学した、テキサスクリスチャン大学芸術学部と本学芸術学部の共同プロジェクト「Sons and Daughters of the Sun and Star」の際に制作したものであり、帯状の鉄で構成された高さ4m、幅7.5m、奥行2.6mの彫刻は、ノグチ案の構造的な美しさを示し、会場である宇品の倉庫の空間を作品の力で一変させた。

優秀賞

マク

増田 純 マスダ ジュン

芸術学研究科 造形芸術分野 現代表現

H 900 × W 700 mm 3点

インクジェットプリント、写真

 増田の「膜」は、2013年10月12日から11月30日まで開催したART BASE 百島(尾道市)の企画展「100のアイデア、あしたの島。-アートはより良い社会のために何ができるのか?」でのサイトスペシフィック・インスタレーションから発展したものである。本展は離島の特殊な環境でアートの役割や人間の生き方を再考するという企画内容であったが、増田は会場のコンテキストを見事に読み解き、長年使われる事の無かった空き家とそこに大量に残され廃物となった家具類で、高齢化、過疎化、高度経済成長期の物への執着を、大規模なサイトスペシフィックな作品として見事に現出させた(「人間の住処」2013年)。企画の内容に真摯に取り組んだ成果も秀逸であったが、空家を一軒丸ごと作品化した力量も優れていた。
 「膜」は、空き家から出た大量の家具類を透明なビニール膜でラッピングした上記インスタレーションのディティールに焦点を当てた写真作品である。抽象化された皮膜のイメージは、絵画的表現への新たな可能性が窺え、さらなる展開を模索する増田の前向きな姿勢は、芸術家に最も求められる資質を備えていると期待する。

優秀賞

うつろい Ⅱ Ⅲ Ⅳ ウツロイ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

小川 恵 オガワ ケイ

芸術学研究科 現代表現研究分野

Ⅱ H 1200 × W 1200 × D 700 mm
Ⅲ H 1600 × W1600 × D 200 mm
Ⅳ H 240 × W 800 × D 800 mm

漆、麻布地、乾漆

 作品は乾漆技法で制作されたオブジェ3点である。工芸の成り立ちとして乾漆造形の歴史を紐解きながら、乾漆、特に脱活乾漆の形態変化における造形表現の可能性を考察するための作品を制作している。作品のうつろいⅡは会津の展覧会に出品され、作品うつろいⅢは京都で開催された次世代工芸展において大賞を受賞するなど国内での評価も非常に高い。造形計画研究分野では博士前期過程の2年間における制作態度や創造性、作品の展開、受賞歴など総合的に特に優れていると評価し修了制作優秀賞とした。